人的資本経営ラボGROWIN' EGG

2022年、企業が人的資本経営に向けて踏み出すべき第一歩は何か?

オープニング鼎談:岩本隆×徳谷智史×羽生祥子(4) これから人的資本経営に向き合う企業に向けて

「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」の創刊記念特集は、引き続き人的資本経営への造詣が深い岩本隆さん(山形大学学術研究院産学連携教授)、エッグフォワードのファウンダーで代表取締役社長の徳谷智史、「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長の羽生祥子の3人による鼎談をお送りする。鼎談の最終回となる今回は、日本独自のイノベーション力や2022年に踏み出すべき第一歩が話題に上った。日本企業はこれから、人的資本経営の第一歩をいったいどう踏み出したらよいのだろうか。

日本人には「世界唯一の特殊なイノベーション力」がある

羽生:岩本さんは以前、「日本人には独自のイノベーション力がある」とおっしゃっていましたよね。

岩本:私の同僚の先生にリスクマネジメントの研究者がいるのですが、彼は、日本人には世界唯一の特殊なイノベーション力がある、と言っています。このイノベーション力は、「どん底のマイナスを0にするとき」に発揮されるというのです。震災復興が典型例です。東日本大震災の復興のとき、四方八方から集まった日本人ボランティアの皆さんは、特定のリーダーがいるわけでもないのに、なぜかスムーズかつ自律的に協働していた、と。先生によれば、こんな奇妙なチームワークの創発は、世界で唯一、日本人にしかできないのだそうです。

このチームワーク創発のプロセス自体は、欧米的なイノベーション創発のプロセスと似ています。ただし日本人は、マイナスを0にしようとする時には、チームワーク創発でものすごい力を発揮するけれど、0から1を生み出す時には、なぜかこの力を発揮できず、イノベーションが苦手だ、という話になってしまっています。両者の違いを考えてみると、「マイナスを0に戻す」時は、「元の状態」というゴールが明確で、「0から1を生み出す」時は、何が生まれるかわからない、ゴールが見えないということに気づきます。つまり、日本人は、ゴールが決まっているほうが力を発揮できるようなんですね。

図:日本的なチームワーク創発プロセスと欧米的なイノベーション創発のプロセスの違い
出典:岩本さんの話をもとに編集部作成

羽生:その力をぜひ進化させて、「0→1」にも応用できる日本らしいイノベーション創発につなげたいものです。

岩本:そのために必要なのは、失敗を怖れずに挑戦することを奨励する企業風土ではないでしょうか。ゴール=正解が明確なプロジェクトとは違い、イノベーションはゴールが見えない、つまり正解は不明瞭です。でも逆に言えば、どのような形でも正解になり得るのです。何度も失敗するかもしれませんが、そのたびに迅速に学び、その失敗の中から有望なイノベーションへの道筋を探し当て、価値を創出する新しい形が作れれば、それが正解になります。

日本には、いまだに失敗してはいけない空気が色濃く残っていますが、数多くの失敗の先にしか正解はない、というある種の明るさや“開き直り”が必要ではないでしょうか。「イノベーションを生み出そうとして生まれる失敗は失敗ではない」という新たな常識を作り、「0から1を生み出すチームワーク創発」という新しい能力を獲得してほしいと思います。