人的資本経営ラボGROWIN' EGG

なぜいま人的資本経営が注目されるのか?

オープニング鼎談:岩本隆×徳谷智史×羽生祥子(1) 
情報開示に終わらせない、プロフェッショナルを育てる「攻めの経営」

「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」の創刊記念特集は、2020年10月に日本初のISO 30414リードコンサルタント/アセッサー認証を取得し、人的資本経営への造詣が深い岩本隆さん(山形大学学術研究院産学連携教授)と、「世界唯一の人材開発企業」を掲げるエッグフォワードのファウンダーで代表取締役社長の徳谷智史、「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長の羽生祥子による鼎談をお送りする。

実は、以前から当たり前にあった「人的資本経営」

羽生:近ごろの新聞には、「人的資本経営」という言葉が頻繁に登場して、すっかり流行語ですね。でも、「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」では、この言葉を単なる流行に終わらせないで、日本企業が前に進むためのツール、ノウハウにしたいと思っています。まずお二人にお聞きしたいのですが、人的資本経営とは、ものすごく簡単にいえば「人を大切にしましょう」ということで、今に始まったことではなく経営にとっては「当たり前のこと」だと思うのですが……。なぜこのタイミングで注目が集まっているのでしょうか。

岩本さん(以下、岩本):人的資本経営は、英語では「Human Capital Management」で、欧米では以前から普通に使われており、 数十年前から人的資本経営を実践しているといえます。日本でも人材を企業活動においてもっとも大事な要素だと考える経営は、少しずつですが進んでいたと思いますが、ここにきて大きな注目を集めることになっています。

そのきっかけは、実は、2017年に本格的に動き出した働き方改革なのです。経済産業省が、働き方改革を進めながら競争力や生産性を高めるにはどうしたらよいかを考えた結果、人的資本経営にたどり着いたと私は理解しています。

人的資本経営への造詣が深い岩本隆さん(山形大学学術研究院産学連携教授)

羽生:働き方改革は、ワークライフバランスやウェルビーイングの実現を目指す、いわば「優しい改革」のイメージが強いですが、人的資本経営は単に優しいだけではない、ということですか 。

岩本:もちろん、日本企業の長時間労働体質を考えれば、働き方改革は必要でした。ただ、単に労働時間を短くしましょう、休みを取りやすい企業になりましょう、というだけだと企業の競争力や生産性が落ちてしまうのではないか。それを経済産業省も多くの企業経営者も危惧しました。

そこで、働き方改革で労働時間が減ったとしても、企業が成長し、人材獲得を含めたグローバルな競争力を確保し続けるためには何が必要なのかを一生懸命考えた。その結果たどり着いたのが人的資本経営の考え方なのです。人材を人的資本ととらえて、そこに様々な形の投資をすることによって、今まで以上に高い付加価値を創出できるようにするということですね。

羽生:先ほど私は「人を大切にする経営」と言いましたが、「大切にする」というのは「働きやすい職場を用意して、大事に優しく扱う」ということではなく、「一人ひとりがもっと多くの価値を生み出せるようになる“攻めの経営”」という意味なんですね。

徳谷さんは、以前から人的資本経営とほぼ同じ考え方を提唱していたんですよね。今の注目のされ方を見て、何をいまさら、って思いませんか(笑)。

創業以来10年、「人的資本経営」と同様の考え方で企業の人材開発をしてきた徳谷智史(エッグフォワード代表取締役社長)

徳谷:そうですね。確かに私たちエッグフォワードは、10年前から人的資本経営と同様の考え方でお客さまとなる企業に接してきました。それは、「人が本来持つ可能性」を信じ、それが人を変え、組織を変え、世の中を前進させていく。起点は一人ひとりの人だ、という考え方です。

羽生:まさに、「人的資本経営」と同じことを言っていますね。

徳谷:時代の流れがようやく私たちに近づいてきた、と感じています。実際、人的資本経営の相談が急速に増えています。ただ、いまはまだ本質的な相談が少なくて、「人的資本情報の開示義務化に対応したい」「他社がやっているから、我が社も人的資本情報の開示をしたい」という依頼ばかりなんですよね。