トップランナーの創出を目指した人材育成に舵を切ろう
オープニング鼎談:岩本隆×徳谷智史×羽生祥子(3) 平等な機会提供から、個別の機会提供へ
働く個人は、自分のいまの市場価値を客観的に知ることが大切だ
羽生:ところで、働く個人のほうは、人的資本経営にどう対応したらいいんですか? 私自身も参考にしたいと思います。
岩本:組織に甘えず、「自律性」を高めることが求められます。青山学院大学の駅伝チームは「自立から自律へ」というテーマを掲げていますが、ビジネスパーソンもまさに同じことを目指す時代になりました。自律性の高い個人は、いまの企業が物足りないなら、転職すればいいと考えるでしょう。そういう個人が増えれば、企業は否が応でも人的資本経営に舵を切ることになるはずです。
羽生:私の知る範囲では、いまの20~30代の若い世代では「将来こうなりたいから、このスキルと経験が必要。なので、いまこの会社に務めています」と、自分の目標に合わせて企業を選ぶ視点を持つ人が出てきましたね。
徳谷:将来の目標に合わせて、自律的に機会選択ができることはとてもいいと思います。ただ、それには同時に、価値を出すという責任も伴います。社内の看板を外した時に「自分はどんな価値が出せるのか」「どうありたいのか」ということに、受け身ではなく、真正面から向き合うことなのだと思います。
特に若いうちに、非連続な成長の機会、ストレッチの機会を得てさまざまなチャレンジを繰り返すことが、成長の原動力になります。
そのうえで、社外の転職サービスなどを活用して、自分が他社からどのように評価されるかを探ってみることをお勧めします。キャリアコンサルタントと面談したり、実際に転職活動をしたりして、現時点での自分のスキルや実績が、社外でどのように評価されるのか、そしてどの点が評価されないのかをよく確かめるのです。
私が言っているのは、転職しましょう、ではなく、あくまでも「自分のいまの市場価値を客観的に知りましょう」ということです。なぜなら、自分の市場価値がわかれば、これから社内でどのスキルを身につけたらよいか、どのキャリアを選んだらよいかが見えてくるからです。
もう一つ付け加えると、企業側も個人の自律任せにすればいいというわけではありません。一人ひとりの意志や自律を育むような仕組みづくりも必要です。人材価値を最大化することによって、持続的な企業価値を最大化することが人的資本経営です。個人の意思や動機を引き出し最適な機会提供により企業価値を最大化することと、個人の自己実現を、いかに両立できるかが企業に問われています。個人のほうも、自分がこの会社で何を成し遂げるのか、それに必要な能力やスキルはどうやったら身につくのかを考えながら、自ら主体的に動けるようになるのが理想ですね。
(第4回につづく)
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岩本隆(いわもと・たかし)さん
山形大学学術研究院産学連携教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より山形大学学術研究院産学連携教授。外資系グローバル企業での最先端技術の研究開発や研究開発組織のマネジメントの経験を活かし、DIでは、技術系企業に対する「技術」と「戦略」を融合させた経営コンサルティングや、「技術」・「戦略」・「政策」の融合による産業プロデュースなど、戦略コンサルティング業界における新領域を開拓。
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徳谷智史(とくや・さとし)
エッグフォワード 代表取締役社長
京都大学卒業後、大手戦略コンサルティング会社に入社。国内プロジェクトリーダーを経験後、アジアオフィスを立ち上げ、同代表に就任。その後「いまだない価値を創り出し、人が本来持つ可能性を実現し合う世界を創る」というミッションのもと、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサルなど、トップ企業に対する企業変革のコンサルティングや、スタートアップ各社への出資・支援などを幅広く手がける。近年は、AI等を活用したHR-Tech分野の取り組み、事業開発や、教育機関支援にも携わる。NewsPicksキャリア分野プロフェッサー。東洋経済オンラインなどにも連載を持つ。著書に『いま、決める力』等がある。Podcast「経営中毒~誰にも言えない社長の孤独」メインMC。
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羽生祥子(はぶ・さちこ)
「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長
著作家・メディアプロデューサー、株式会社羽生プロ代表取締役社長。日経xwoman客員研究員、京都大学「令和版・ジェンダー論」講師。京都大学卒業(農学部入学、総合人間学部卒)。2000年に卒業後、渡仏。帰国後に無職、ベンチャー、契約社員など多様な働き方を経験しサバイバル。2002年編集工学研究所で松岡正剛に師事し「千夜千冊」に関わる。2005年日経ホーム出版社入社。2012年「日経マネー」副編集長。2013年「日経DUAL」創刊編集長。2018年「日経xwoman」総編集長。「日経ARIA」創刊編集長。2020年「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」始動。近著『多様性って何ですか? D&Iジェンダー平等入門』。内閣府「第4次少子化社会対策大綱策定のための検討会」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員等。2児の母、趣味はピアノと朝ラン。