ウェルビーイング(Well-Being)
ウェルビーイング(Well-Being)とは、直訳すると「よい在り方」「よく在ること」であるが、現在では、身体的・精神的・そして社会的に、すべてが満たされた状態にあることを意味する言葉として使われている。ウェルビーイングには「幸福」「幸せ」という訳語が当てられることもあるが、シンプルな幸福を表す「ハピネス(Happiness)」を超えた、「持続的な幸福」や「多面的な幸福」というニュアンスが加わっている。日本では、厚生労働省による「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」という定義が使われることもある。
1947年に採択されたWHO(世界保健機関)憲章の前文に、健康を定義する次のような一文がある。「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます」。これがウェルビーイングという言葉が用いられた最初だとされている。さまざまな国際機関や各国政府が人々のウェルビーイングを実現するための政策を講じており、生活者や住民のウェルビーイングの状態を可視化しようという試みもさかんである。
例えば国連は2012年から毎年、国別の世界幸福度ランキングを発表しており、ここでは、6つの要素からなる「生活評価」が中心的な指標となっている。6つの要素とは「国民一人当たりのGDP」「国民の健康寿命」「社会的サポートを得られているか」「人生における自己決定感」「寛容性」「信頼感情」である。
各国政府も、それぞれ独自の観点を盛り込んだ指標を用いて、国民のウェルビーイングの状態を測定している。日本でも、内閣府が2019年に「満足度・生活の質に関する指標群(ウェルビーイングダッシュボード)」を発表し、「満足度・生活の質に関する調査」を継続的に行っている。
近年では、企業にとっても、従業員のウェルビーイングを実現できているかどうか、そのための支援として何をすべきか、といったことが重要な関心事となっている。その理由は、働く人のウェルビーイングが実現されれば、生産性の向上だけでなく、職場における人間関係の改善、人々の帰属意識や働く意欲の向上などにつながり、結果として、企業の成長や発展が実現すると考えられるからだ。人的資本を厚くすることで企業の成長が実現されるとする人的資本経営の考え方においても、従業員のウェルビーイング実現は重要なテーマのひとつになり得る。
従業員のウェルビーイングの状態を測る指標にはさまざまなものが考えられるが、一例として、「ポジティブ心理学」の創始者といわれるマーティン・セリグマン氏(ペンシルバニア大学教授)の提唱するPERMAモデルがある。このモデルでは、ポジティブ感情(Positive emotion)、エンゲージメント(Engagement)、他者とのよい関係性(Relationship)、人生の意義の自覚(Meaning)、達成感(Accomplishment)の5つが、ウェルビーイングを構成する要素となる。
個人が充実したキャリアを歩めるよう、仕事における達成や成功を支援すること、職場や社内外での良好な人間関係構築を支援し、インクルーシブな組織づくりをすること、過重労働やストレスの発生を防ぎ、従業員の心身の健康を守ること、などが具体的に求められている。