人的資本経営ラボGROWIN' EGG

DEI(ディー・イー・アイ)

文/米川春馬

D&I(ダイバーシティ アンド インクルージョン)とは、多様な人が存在し受け入れられることであり、組織においては、所属する全ての人々が、お互いを等しく尊重し、蔑ろにしない状態を作ることである。D&Iをさらに発展させた形で、近年生まれたのが「DEI」の考え方である。DEIは「ダイバーシティ、エクイティおよびインクルージョン(Diversity, Equity and Inclusion)」の略で、D&Iに「Equity(エクイティ)」の概念が加わっている。

エクイティは公平性・公正性を意味する。社会的に与えられている条件や属性(性別、年齢、人種、民族、身体的・精神的特性など)といった前提条件が異なる一人ひとりに対して個別的な支援を提供することで、誰もが同じ機会に公平にアクセス・参加できるようにすることだ。企業がエクイティを推進するのは、組織における多様性(ダイバーシティ)が高まるなかで、すべての人が、前提条件の違いにかかわらず価値創造活動に参加できれば、企業の成果はより大きくなると考えられるからである。

エクイティの概念をより明確に理解するために、一本の大きなリンゴの木を想像してみよう。木になっているリンゴまでの距離は、個人にすでに与えられた環境や条件によって異なる。リンゴを得られるかどうかが、最初にどこに立っていたかで決まってしまうのは、公正性が欠けた状態だといえる。

この時に、どの人にも等しく同じサイズの踏み台を与えるのは「平等(Equality、イクオリティ」の考え方だ。だが、同じサイズの踏み台があれば誰もがリンゴに手が届くわけではない。前提条件が異なっている(不平等な)状態で平等な支援をしても、公平な機会へのアクセスは実現しないのだ。

そこで、全員が公平・公正にリンゴに手が届くようにするために、そもそも立っている地点からリンゴまでが遠い人ほど、より手厚いサポートを提供するのが、エクイティの考え方だ。エクイティの考え方に立てば、社会構造や個人の条件・属性によるスタート地点の違いによらず、誰もが等しく機会やリソースにアクセスできるようにするための「不平等な支援」には、合理性がある。 

エクイティの考え方では、そもそも立っている地点の違いが機会へのアクセスを制限しないよう、一人ひとりに個別の支援を提供する。
出典:編集部作成

企業内の従業員もさまざまな前提条件の違いを持っている。不平等な条件に対して、一人ひとりにあった配慮や支援を提供したうえで、平等に価値創造に向き合ってもらうのが企業におけるエクイティ推進ということになる。

DEIが進んだ組織では、多様な一人ひとりが、自分は尊重されており、自分が活躍するための基盤を提供されていると感じながらそれぞれの仕事にコミットすることになり、結果的に多くの成果を生み出し得ると考えられる。人材を人的資本ととらえ、その人たちの価値創出力を最大化しようとする人的資本経営においても、重要な概念だといえるだろう。