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アルムナイ

アルムナイは「卒業生」や「同窓生」を意味する。もともとは、言葉どおり、大学など教育機関の卒業生を指して使われてきたが、近年では、ビジネスの世界でも「退職者=企業の卒業生」を指して使われることが増えている。

日本(特に大企業)では、定年までの長期雇用が中心であり、伝統的に転職や退職は極端に少なかった。だが近年になり、転職や定年前の退職という選択肢は、個人のキャリア意識のなかに徐々に組み込まれつつある。退職者が極端に少ないときには、企業にとっては退職者との関係をどのような状態で保つか(あるいは断つか)は優先度の高い課題ではなかったが、退職者数が増えてきた現在は、退職者と長く良好な関係を保ちたいと考える企業が増えている。退職した人々が、「アルムナイ」として、企業のステークホルダーの一環に加わっているのだ。

企業がアルムナイを重視するのは、アルムナイに、元の勤め先や職場を嫌う“アンチ”ではなく、ファンや応援者として存在してもらいたいからだ。元の職場に好意的なアルムナイは、将来的に新たな顧客になったり、転職先で協業を実現してくれたりするかもしれない。また、独立する場合や副業が許される場合には、外部パートナーになる可能性もあり、何年か後に出戻りで再入社してくれる可能性もある。こうした実質的な利益だけでなく、以前在籍していた人が、その企業のファンであり続けてくれることで、企業のイメージや社会的なブランドは向上し得る。
このように、企業が、アルムナイは自社の財産=人的資本の一部であると考えるならば、アルムナイとの良好な関係性の構築は、人的資本経営における課題の一つということになるだろう。

アルムナイとの良好な関係を築くために、アルムナイネットワークを構築し、SNSグループを作ったり、ニュースレターや社内報を定期的に送ったり、「同窓会」を開催したりして、連絡先を把握し、同胞意識を高める施策が取られている。たとえばマッキンゼーやアクセンチュアなどはアルムナイ同志の連携が強いと言われている。また、中途採用にあたって、アルムナイに優先的に情報を提供するような「アルムナイ採用(退職者再雇用)」を行う企業もある。こちらは、野村ホールディングスやみずほフィナンシャルグループなどの金融機関、日本郵政などの大手企業が取り組み始めている。
また、近年では、アルムナイネットワーク構築やアルムナイ採用を支援するサービスも多数生まれており、それらを利用することで、アルムナイとの継続的な関係性構築はしやすくなっているといえる(企業事例は2023年2月現在)。

ところで、アルムナイが注目される背景には、「弱い紐帯」の理論があると見ることもできる。マーク・グラノヴェッターは1973年に、弱い紐帯(つながり)が情報収集や情報拡散をしたり、社会を統合したりする上で優れていると主張し、一躍注目を浴びた。普段はつながりの薄い人が、未知の情報を教えてくれたり、コミュニティ同士を結びつけたりすることが多いというのだ。アルムナイは、企業にとって弱い紐帯の一種ともいえるだろう。