人的資本経営ラボGROWIN' EGG

コクヨ 新入社員とベテランの交流空間「育むフロア」

コクヨ株式会社 働き方改革室室長 新居臨さんに聞く(2)

コロナ禍を経て、在宅リモートの勤務スタイルが受け入れられつつある日本企業。しかし、「チーム力を高めるためには、やはり対面が大切」「マネジメントの難しさから、出勤回数を増やしている」「しかし、従業員は在宅勤務を希望」などの声も挙がっている。“働く場所”についての価値観は、ただいま混在・混乱中で、企業や管理職の抱える悩みは大きい。そんな中で、働く場所を前向きに進化させている企業に、その戦略や最前線のスタイルを聞く。今回はコクヨの働き方改革室室長・新居臨さんに、1on1や新入社員育成、工場の働き方改革について伺った。(今回は前後編のうち後編)
●お話を伺ったのは
コクヨ株式会社
ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革室 室長
新居 臨さん

聞き手 羽生 祥子、石原 直子(「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・副編集長)
文    米川 青馬

工場内のチームが業務相談や雑談をする多様なしかけを検討

――コクヨもメーカーですが、製造現場でも働き方を変えていけると思いますか?

新居:確かに工場は、デスクワークのスタッフとは働き方が大きく異なります。働く時間は固定的ですし、働く場所もライン業務の中で制約されます。しかし私たちは工場メンバーと対話を繰り返し、どんな困りごとがあるのか、何が求められているのかを探ってきました。その結果、デスクワーカーと共通の課題が見つかりました。業務上の意思疎通は都度実施していますが、ラインを離れた休憩時間などは、個々人で時間を過ごし、組織単位での雑談などがほぼ無いのです。現場単位での小さなコミュニケーションチャネルを増やすことが先決だ、という結論に達し、これからいくつかの取り組みを始めます。その一つとして、2024年度から工場内で「もぐもぐタイム」を実験的に実施することを検討しています。カーリング女子日本代表チームが試合の合間にやっていた、アレです。勤務時間内におやつ休憩時間をつくり、みんなで会社が支給するおやつを食べながら、業務相談や雑談をする場を設けるのです。このようなリラックスした中、心理的安定性の高い対話の場を増やすことが、コクヨにおける工場の働き方改革の第一歩だと考えています。

また、製造現場には「技術伝承」という大きな課題があります。その課題解決のために「L1グランプリ(仮)」を企画し実行しようとしています。これは、工場の50代社員と20代社員がペアになり、ラインで出た様々な廃材を使って、ペアでクリエイティビティを発揮し、テーマに沿った作品をつくり上げてもらうコンテストです。思いきり楽しみながら、ベテランから若手への技術伝承につなげてもらえたらよいと構想しています。いずれにしても、「等身大で楽しく面白く向き合ってもらう」ことを大事にしています。この2つの施策例は、まだまだ企画段階です。工場現場の皆に実施目的の理解が必要ですし、楽しそうだからやってみようか、という共感を得ないと形式的になってしまうので、慎重に進めています。

少しずつですが、起こしたい変化が確実に起こっていると自己点検しています。さまざまな実験を繰り返してきた結果、実験カルチャーは着実に根づいてきました。データや数字をどんどん公開することにも社員が少しづつ慣れてきて、一人ひとりが自分で考え、オープンに語り合う社風に変わってきました。これからもさまざまな実験で、自律共創の人を増やしてゆけるよう努めます。

  • 新居 臨氏 コクヨ株式会社/ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革室 室長


    広島大学卒業後、1998年コクヨ入社。入社後は、インテリアデザイナー、プロジェクトマネージャー、ワークスタイルコンサルタントとして、お客様の経営改革のために働く環境を変革する経験を多様に積んできた。自社オフィス移転プロジェクトに関わったことをきっかけに、働き方改革タスクフォース(現・働き方改革室)の長となる。2021年に竣工した働き方の実験場「THE CAMPUS」をつくる際も、新居氏がプロジェクトリーダーを務めた。