人的資本経営ラボGROWIN' EGG

コクヨ 新入社員とベテランの交流空間「育むフロア」

コクヨ株式会社 働き方改革室室長 新居臨さんに聞く(2)

コロナ禍を経て、在宅リモートの勤務スタイルが受け入れられつつある日本企業。しかし、「チーム力を高めるためには、やはり対面が大切」「マネジメントの難しさから、出勤回数を増やしている」「しかし、従業員は在宅勤務を希望」などの声も挙がっている。“働く場所”についての価値観は、ただいま混在・混乱中で、企業や管理職の抱える悩みは大きい。そんな中で、働く場所を前向きに進化させている企業に、その戦略や最前線のスタイルを聞く。今回はコクヨの働き方改革室室長・新居臨さんに、1on1や新入社員育成、工場の働き方改革について伺った。(今回は前後編のうち後編)
●お話を伺ったのは
コクヨ株式会社
ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革室 室長
新居 臨さん

聞き手 羽生 祥子、石原 直子(「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・副編集長)
文    米川 青馬

新入社員をみんなで寄ってたかって育成する仕組みに変えた

――新入社員の育成について、もう少し詳しく教えてください。

新居:先ほど触れたとおり、新入社員はオンボーディング期間の1年間は出社を義務づけています。コクヨでは新しく入社した人に対して、先輩社員がメンターとして初期にあれこれめんどうを見る仕組みがあるのですが、この期間はメンターの先輩社員にも出社をお願いし、新しく入った人達がよいスタートを切れるよう協力してもらっています。オンボーディング期間に出社するのは、東京では、品川オフィス「THE CAMPUS」6階にある「育むフロア」です

新しく入った人は必ず「育むフロア」にいる。そう固定しておいて、上長やメンターなどがそこに次々に来て、新入社員たちの相談に乗ったり、仕事の進め方を教えたりする。「寄ってたかって育てる」仕組みと言っているのですが、これも試行錯誤の結果、今の形になってきたものです。最初は、役員などに育むフロアの比較的壁寄りのデスクに時間を決めて座ってもらう、という試みもありました。新入社員はそこに座っている人にはいつでも質問に行っていい、というわけです。でも、偉い人に取り巻かれてじろじろ見られているようでは新入社員も落ち着かず、期待していたような対話は生まれませんでした。そこで、逆に、役員やベテランに部屋の中央に座ってもらうことにしてみたら、以前よりも話しかけるハードルが下がりました。こんな風に実験を繰り返しながら、どうやると対話の量が増えるのか、どうすれば新入社員をみんなで寄ってたかって育てるカルチャーを根付かせられるかを試しています。

「育むフロア」ではさまざまな先輩が新人と対話して成長を後押しする

――素晴らしいオフィス空間ですね。

新居:「THE CAMPUS」はさまざまな形で活用しているんですよ。たとえば、2023年にはTHE CAMPUS全館を使ったあるテレビ番組の大型ロケが行われ、評判にもなりました。私たちは働く環境が、人に与えるポジティブな影響を信じています。

オフィスといえば、私たちは2022年に、サテライト型の社員向け多目的スペース「n.5(エヌテンゴ)」を東京・下北沢に開設しました。社員はこのn.5をサテライトオフィスとして活用できるだけでなく、このスペースを、個人的な活動のためのギャラリーやパーティ会場、イベント・ワークショップの会場として借り出すこともできるのです。職住近接によって可処分時間を創出するだけではなく、物理的なスペースを提供することによって、自分の時間を自律的に・自分らしく使ってもらえれば、事業と人材の同時成長が目指せるのではないかと考えているのです。

「n.5」を下北沢に開設したのは、わざわざ行く意味のある街だからだ(撮影:千葉 顕弥)