
人的資本経営のベースは「期待」と「機会」と「主体性」
創刊1周年記念特集:大久保 幸夫さんに聞く(2)
株式会社職業能力研究所
代表取締役
大久保 幸夫さん
聞き手 羽生 祥子、石原 直子(「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・副編集長)
文 米川 青馬
- 前編
- 後編
企業理念やパーパスを、ブレークダウンして部下に伝える人が必要
――キャリアオーナーシップのほかには、何を大事にすべきですか?
大久保:社員一人ひとりへの期待を明確にして、期待する成果を求めつづけること。自ら手を挙げた社員に活躍したり学んだりする機会を与えて、主体的なパフォーマンスアップ・スキルアップの筋道を作ること。この2つが人的資本経営の基本です。つまり、人的資本経営のベースには「期待」と「機会」と「主体性」があるわけです。
その上で、働く個人には、日々の仕事のなかで企業理念やパーパスとつながりを感じてもらうことが肝要です。しかし、企業理念・パーパスは抽象的で、個人の想いとのあいだには相当の距離があります。ですから、社員が自分ひとりの力で、自分の想いと企業理念やパーパスのあいだにつながりをつくるのは極めて難しい。企業理念・パーパスを社員一人ひとりの日常に宿らせるためには、組織内で企業理念・パーパスを何段階にもブレークダウンすることが欠かせません。そうしてはじめて、社員が自分の仕事・想いと企業理念・パーパスを接続できるようになるのです。

大久保:企業理念やパーパスを一人ひとりの日常に宿らせるのは、人事だけでは不可能です。マネジャーと人事が協力して、企業理念・パーパスをブレークダウンし、かつ部下一人ひとりに寄り添うことが欠かせません。
しかし現状、日本企業には、企業理念・パーパスをブレークダウンして、部下の日常に宿らせるスキルを持ったマネジャーは不足しています。なぜなら、どのマネジャーもそのような経験がなく、訓練も受けてこなかったからです。そして、マネジャーをサポートするHRBP(ヒューマンリソースビジネスパートナー)も育っていないのです。ですが、人的資本経営を現場に導入すると、マネジメントの仕事は根本から一変するのです。人的資本経営を実現する際には、マネジメント育成支援が絶対に欠かせません。