人的資本経営ラボGROWIN' EGG

人的資本経営のベースは「期待」と「機会」と「主体性」

創刊1周年記念特集:大久保 幸夫さんに聞く(2)

2023年、人的資本情報開示の義務化がいよいよ始まった。しかし、日本企業の人的資本経営はまだ端緒についたばかりである。今後、人的資本経営をどのように実現していけばよいのだろうか。そのヒントを得るため、「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長の羽生祥子と副編集長の石原直子は、大久保幸夫さんにインタビューした。大久保さんは、リクルートワークス研究所の所長を20年以上務めた、キャリア論やマネジメント論の専門家である。現在は「企業が人的資本経営を実現する方法」を組み立てている真っ最中だという。その方法のベースとなる考え方、見方を教えてもらった。(今回は前後編のうち後編)
●お話を伺ったのは
株式会社職業能力研究所
代表取締役
大久保 幸夫さん

聞き手 羽生 祥子、石原 直子(「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・副編集長)
文    米川 青馬

企業理念やパーパスを、ブレークダウンして部下に伝える人が必要

――キャリアオーナーシップのほかには、何を大事にすべきですか?

大久保社員一人ひとりへの期待を明確にして、期待する成果を求めつづけること。自ら手を挙げた社員に活躍したり学んだりする機会を与えて、主体的なパフォーマンスアップ・スキルアップの筋道を作ること。この2つが人的資本経営の基本です。つまり、人的資本経営のベースには「期待」と「機会」と「主体性」があるわけです。

その上で、働く個人には、日々の仕事のなかで企業理念やパーパスとつながりを感じてもらうことが肝要です。しかし、企業理念・パーパスは抽象的で、個人の想いとのあいだには相当の距離があります。ですから、社員が自分ひとりの力で、自分の想いと企業理念やパーパスのあいだにつながりをつくるのは極めて難しい。企業理念・パーパスを社員一人ひとりの日常に宿らせるためには、組織内で企業理念・パーパスを何段階にもブレークダウンすることが欠かせません。そうしてはじめて、社員が自分の仕事・想いと企業理念・パーパスを接続できるようになるのです

企業理念やパーパス浸透のためにはブレークダウンが必要

大久保:企業理念やパーパスを一人ひとりの日常に宿らせるのは、人事だけでは不可能です。マネジャーと人事が協力して、企業理念・パーパスをブレークダウンし、かつ部下一人ひとりに寄り添うことが欠かせません。

しかし現状、日本企業には、企業理念・パーパスをブレークダウンして、部下の日常に宿らせるスキルを持ったマネジャーは不足しています。なぜなら、どのマネジャーもそのような経験がなく、訓練も受けてこなかったからです。そして、マネジャーをサポートするHRBP(ヒューマンリソースビジネスパートナー)も育っていないのです。ですが、人的資本経営を現場に導入すると、マネジメントの仕事は根本から一変するのです。人的資本経営を実現する際には、マネジメント育成支援が絶対に欠かせません