人的資本経営ラボGROWIN' EGG

パーパス/パーパス経営

文/米川春馬

パーパスは目的・目標などと訳されることが多いが、ビジネスの文脈で用いられるパーパスとは、企業の「存在意義」のことだ。自社は何のためにこの社会に存在するのかを明示的に説明したものをパーパスという。そして、すべての企業活動がパーパス実現のための活動になっているかを照らし合わせながら企業運営をしていくあり方をパーパス経営という。

同じく企業の基本的な姿勢やあり方を明文化する概念としてミッション・ビジョンなどがある。パーパスとミッションやビジョンは厳密に区別せずに使われることも多く、実際に、ミッションやビジョンを掲げるのをやめてパーパスを掲げる会社もあれば、パーパスと同時にミッションやビジョンを掲げる会社もあるなど、企業によってその使い方には幅がある。敢えていうならば、ミッションはこれから先に企業がなすべきこと(使命)、ビジョンは作り上げたい世界観、というように未来を構想して定められることが多いが、パーパスはそもそもなぜこの会社が作られたのか、という創業の理念や会社の歴史的経緯も含めた「原点」を掘り下げて構築されることが多い。ただしこれも一概にはいえず、未来を語るパーパスもあれば原点を掘り下げて作られたミッションも存在する。

参考までに下の表に代表的な会社がパーパスやミッション・ビジョンなど自社の基本的な姿勢やあり方を表すことばをどのように定めているかを整理した。

■表:代表的な企業の理念の表現

2022年10月31日時点の国内時価総額トップ5社の、理念などを表す言葉を整理した。パーパスを作っている企業も、ミッションやビジョンという形で整理している企業もある。

出典: 各社WEBサイトをもとに、編集部作成。各社WEBサイトのURLは以下のとおり。

近年新たにパーパスを定めた会社の例にサイバーエージェントがある。サイバーエージェントは長らく「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げてきたが、2021年10月に改めてパーパス「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」を発表した。同社代表取締役の藤田晋氏は「パーパスへ関心を持ったきっかけは、ESG投資やSDGsなど企業の社会貢献に対する世の中の注目の高まりです。社員と話す中で『仕事を通じた社会への貢献を感じ取りたい』という彼らの欲求には切実なものがあると感じていました。(中略)我々の会社は社会に対してどのように役に立っているのかを明文化すべきでは、と次第に考えるようになりました。」と語っている。
(出典:サイバーエージェント公式オウンドメディア『CyberAgentWay』内の記事「パーパス『新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する』に込めた想い」(2021年10月6日付)

パーパスが注目される背景には、社会が成熟する中で、人々が企業に対して「この会社は私たちの生きる社会にどうかかわるつもりなのか」という視点を投げかけるようになったことがある。人々の生活を便利にすることのみならず、地球環境の保全や回復、公共善の実現に対する企業のかかわり方が問われているのだ。パーパスは、こうした問いかけへの企業からの答えだといえる。

企業活動の中心にパーパスを据えるパーパス経営では、すべての企業活動において、パーパス実現に結びついているかが意思決定の基準となる。どの事業に力を入れるのか、どんな商品やサービスを展開するのか、何を大事にしてビジネスを行うのか、社外取締役に誰を選ぶのか、どんな人材を昇格させるのか。これらの意思決定が、すべてパーパスに照らし合わせて行われることで、自己矛盾の少ない、一貫した企業経営を実現しうる。

一方でパーパスは、社内の人材に対する強力なメッセージでもある。特に若い世代は、働く場所を選択するにあたっても共感を重視する傾向があり、また、社会課題に関しても敏感である。企業がパーパスを明確に示し、その社会的な存在理由に共感する人材を採用できれば、オーナーシップを持って自律的に働く人を増やせる。働く人々のポテンシャルを最大に活かそうとする人的資本経営とパーパス経営はこうした観点から重なり合う部分が多いといえる。