人的資源管理(Human Resource Management)
「人的資源管理(Human Resource Management)」とは、会社の経営資源のなかでも、ヒトに対して行われる管理活動の総称である。どちらかといえば集団としての労働力を適正に確保することを主目的とした「労務管理」に代わる考え方として、20世紀を通じて活用されてきた。
人的資源管理の考え方の発祥は、1930年頃、エルトン・メイヨーが「労働者の作業能率は、客観的な職場環境よりも職場における人間関係や集団内の規範などに左右される」という示唆を導き出したホーソン実験に遡ることができる。それまでは、ヒトというのは単に生産活動に必要な労働力の提供主体であると捉え、労働力供給の最適化と適正かつ正確な賃金支払いに主眼を置いた「労務管理」の考え方がとられていた。だが、ホーソン実験以降は、ヒトの生産性はより内面的なさまざまな要素によって変化するという考え方が主流になり、そこから、モチベーション研究やリーダーシップ研究、組織開発研究などが生まれ、また、報酬制度や福利厚生などの考え方にもさまざまなバリエーションが発生した。これらはすべて、人材という資源の状態がどのようになっていれば、その生産性が最大になるのかを追求するという目的のもとに発展したものである。
20世紀に「労務管理」が「人的資源管理」に変化したように、現在はさらに、「人的資源管理」から「人的資本経営(Human Capital Management)」へと、企業における「ヒト」とのかかわり方の基本姿勢に変化が起きようとしている。
ヒトを「人的資本」と捉えなおすことで、企業の、ヒトに対する考え方や姿勢はもう一段の進化を遂げ得る。人的資源管理の時代にも、ヒトに対する能力開発投資やモチベーション向上のための諸施策によって、ヒトの生産性は変化するという前提のもとに、さまざまな施策が講じられてきたが、ヒトを「資本」と位置づける人的資本経営では、ヒトへの投資がより一層重要な経営課題として浮かび上がることになる。それは、資本というものが、使えば使うだけ減少する資源とは異なり、うまく活用すれば活用しながらも増やすことができるという性質を持つからだ。ヒトという資本の厚みを増やすことによって、企業の成長や価値向上が実現するということをより強調するのが、人的資本経営なのだ。
ただし、人的資源管理という考え方の時代に、人々のモチベーションやエンゲージメント、個人の能力開発や個人が集まったチームの状態をよくしようとする組織開発などに対して、注目や関心が払われてこなかったと考えるのは間違いである。人的資源管理の時代にも、これらは人事部やマネジャーにとって、重要なテーマであった。どちらの言葉を使うかにかかわらず、一人ひとりの能力が十分に開発され、その能力を存分に発揮できる環境を整えることによって、個人の成長や達成と企業の成長や発展をつなげていくことが重要だ。