真っ先に開示すべきは人材ポートフォリオ情報では?
創刊1周年記念特集:人的資本経営2023 編集部対談(後編)
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日本企業の社員たちは、世代間の違いをお互いに知らなすぎる
羽生:人材育成に関連する話なのですが、いま日本企業にぜひ提案したいことがあります。それは、ダイバーシティ経営の文脈でも注目されている「リーダーシップ・パイプライン構築」、つまり管理職を育成する際に、合わせて「世代ごとの違いを学ぶこと」です。
石原:どういうことですか?
羽生:グローバル企業では、入社するメンバーの人種や宗教も含めた歴史的背景や価値観を詳しく言語化し、お互いに学び合っています。それは、お互いがどれだけ違うかを痛いほど知っていて、チームビルディングにとって非常に重要な項目だと考えているからです。そうやって具体的に“多様性”を受け入れる訓練をしているわけです。
でも、日本企業はそういう学び合いに必要性をあまり感じていません。日本国内であっても、実は育ってきたときの経済状況や政治動向が異なれば、世代ごとの価値観がまったく違います。たとえば、1980年前後の入社組は性別役割分担が大前提の政治・経済方針で育ったので、今「男女賃金格差をなくそう」といっても納得しにくい。一方で2000年以降に入社した人たちは、夫婦共働きを普通だと思っています。2020年以降に入社した、いわゆる“SDGsネイティブ”の層は、長時間働くことをカッコ悪いと思うなど、労働観は世代によって全く違います。日本企業は、国内の従業員は人種も民族もほぼ同じだからとひとくくりにして、そうした違いをお互いに知らなすぎる。世代分析の解像度が低すぎるのです。世代ごとの違いをスキャンし合い、学び合うだけで、パイプライン構築に関するソリューションがずいぶん明確になるのではと思います。
石原:日本社会は、いまだに多様であることに向き合えていない、ということには同感です。結局、多くの人が多様性を甘くみているんだと思います。
羽生:そう、「甘くみている」という感じ。組織戦略の根幹だと思うんですけどね、私は。
石原:究極的には、「私は私、人は人」と思えることが、多様性に向き合うことなんじゃないかな、と思っています。私たちはどうしても一体感を求めがちですが、本当は一人ひとりが違う考えを持っているのだから、何でもかんでも一体感に押し込めることには無理があると思うんです。価値観や行動規範や置かれている状況がみんな別々であることは前提にした上で、それでも一生懸命になって同じ目的を果たそうとする人たちの集まりがチームだ、という考えをデフォルトにしたほうがいい。それができないから、フルタイム勤務の人が短時間勤務の人を嫌ったり、同期入社の仲間との差を気にしたりしてしまうんです。自律とは、「みんなそれぞれ違うのだから、私は私の道を行こう」と考えること、じゃないでしょうか。
羽生:ありがとうございました。さてこの特集では、第一線で活躍する専門家たちにも登場してもらい、「人的資本経営2023」を深堀りしていきます。お楽しみに!
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羽生祥子
「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長
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石原直子
「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」副編集長