真っ先に開示すべきは人材ポートフォリオ情報では?
創刊1周年記念特集:人的資本経営2023 編集部対談(後編)
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投資家が知りたいのは、ビジネス目標を実現する人材ポートフォリオや人材スキルだ
羽生:業務によって収入はこれまで以上に差が出てくる時代。入社年次のような画一的な指標でみんなが等しく収入を上げていくというのは、昔ばなしになりますね。
石原:はい。生成AIの普及による経済格差は不可避の流れです。生成AIを活用する前提でビジネス目標を設定し、そのために必要な人材を確保しよう、とまともに考えたら、一部の人材にはリスキリングが必要で、残念ながら一部の人材については解雇せざるを得ない、という状況が起きることは容易に想像できます。
ただ、日本企業は格差をつくることに拒否感がありますから、出遅れるかもしれませんね。本来はAI活用とリスキリングや解雇を並行して進めなくてはなりませんが、メンバーシップ型の日本企業では、解雇を避けたいがあまりに、AIにやらせることのできる仕事をいつまでも人にやらせる、というようなことが起こってもおかしくありません。
羽生:私の知る限りでは、日本企業の多くが、形ばかりのリスキリングを進めている印象です。福利厚生的というか、社員向けサービスというか。たとえば語学研修を無料で受けられる権利があったり、ヨガや瞑想をする時間を与えてウェルビーイング経営をうたったり。
石原:日本企業はいま「自律的学習」あるいは「自発的な学習」を掲げているところが少なくないのですよね。でも、私は、このことについては以前から疑問に感じていました。本来は、企業は、社員に「自分の好きな学び」ではなく、事業戦略に必要なスキルを学んでほしいはずです。それなら正直にそういう機会を提供すればいいんですよ。
羽生:そのとおりです。事業戦略と合致していないリスキリングは、そもそもリスキリングではありませんからね。米国企業の取材をしていると、もっと直接的です。「このプロジェクトに貢献するために、あなたに学びのチャンスを与えますよ。半年後には結果を出してほしい」というように。
さて、このリスキリングは、人的資本の情報開示にはどう関係してくると思いますか?
石原:私が投資家だったら、最も知りたいのは、ビジネス目標を実現するために必要な人材ポートフォリオや人材スキルです。その経営目標を達成するには、どのようなスキルを持った人材が何人必要で、現状はどうなのか。足りないのであれば、いつまでに充足できるのか。その会社に優秀でスキルフルな労働者が何人いるのか。人的資本経営で真っ先に開示すべきは、このような情報でしょう。だって、必要なスキルを持った人材のポートフォリオが構築されていなかったら、どれだけ立派なビジネスプランも絵に描いた餅なのですから。
つまり、今後の企業は、生成AIなどデジタルの活用を前提としたビジネスプランを立て、プラン実現に必要な人材ポートフォリオや人材スキルを決定し、それらの現状と改善のために何をしているのか、という情報を開示することが求められると思います。投資家は、その人材戦略がうまくいきそうか、そしてビジネスがそれらの人材によって本当に発展するか、を見ていくことになるのではないでしょうか。