人的資本の情報開示の第一歩、小さくないですか?
創刊1周年記念特集:人的資本経営2023 編集部対談(前編)
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日本企業が一番苦手としている3項目になって良かったとも思う
石原:この3項目、私も羽生さんもそのインパクトが弱いと感じているわけですが、その理由は明らかなんですよ。実は3項目とも、他のところですでに公表がルール化されているんです。
女性管理職比率は、2019年の女性活躍推進法改正により、労働者数101人以上の事業主に対して開示が義務づけられています。男性の育児休業取得率は、育児介護休業法の改正(施行は2023年4月)により労働者数1001人以上の事業主に対して、男女賃金格差は、2022年7月の女性活躍推進法改正により、労働者301人以上の事業主を対象に、開示が義務づけられているのです。
有価証券報告書に記載はされていなくても、多くの企業で既に公表することになっている3項目でした。そもそもこの3項目はどれもダイバーシティ経営にかかわる項目ですからね。もちろんダイバーシティ経営も日本企業の重要な課題ですが、人的資本経営と銘打つからにはこれだけでは物足りません。私自身、ダイバーシティに関する項目はいくつか入ってくるだろうとは思っていたんですが、まさかたった3つの数値的な開示項目が、すべてダイバーシティ関連になるとは思いませんでした。
羽生:ダイバーシティ経営の視点は、人的資本経営の必要条件だとは思うけれど、十分条件ではないですからね。どんな経緯でこの3項目に決まったんでしょうね。
石原:詳細はわかりませんが、最初からいきなり5項目、10項目と多様な項目の開示を求めることは現実的ではないと考えたのでしょうかね。でも、すでに花火は打ち上げたわけですから何らかの情報開示の義務化はしたい。現役の企業経営者に人的資本経営へ向けて一歩踏み出してもらうために、現実的に多くの企業がすぐに開示できる項目を選んだ、ということなのかも。先ほど言ったように、1000人以上の企業は3項目の情報をすでに持っていますから。おそらく今後、開示すべき項目を段階的に増やしていくのではないかと思います。一方で実は、統合報告書に3項目以上の人的資本情報を開示している企業がいくつもあるのも事実です。政府の先を行っている企業も多いんですね。
羽生:ここまで厳しく言ってきてなんですが、私はこの3項目で良かったと思う面もあるんですよ。なぜかというと、3つとも日本企業が世界の先進国と比べて一番苦手としている分野で、経営者たちがいつまでたっても腹落ちしていないジェンダーに関する項目だからです。
石原:結局、20年以上女性活躍推進をやってきたのに、十分に実現できていないわけですからね。日本では、いまだに男女格差のない企業は少なくて、女性管理職比率も男女賃金比率も、ほぼすべての企業で女性のほうが低いのが現実ですね。もう一度、腹を括って女性活躍推進に取り組んでもらうという意味でよいのかもしれませんね。
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羽生祥子
「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長
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石原直子
「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」副編集長