人的資本経営ラボGROWIN' EGG

人的資本の情報開示の第一歩、小さくないですか?

創刊1周年記念特集:人的資本経営2023 編集部対談(前編)

「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」は2023年9月に1周年を迎える。それを記念し、人的資本の情報開示スタートイヤーである2023年の動向を語り尽くす特集をお届けする。皮切りは、編集部対談。編集長・羽生祥子と副編集長・石原直子の目には、人的資本の情報開示の第一歩がどう見えているのだろうか。2022年の振り返りから、現状の印象、今後への期待について濃密に対話した。(前後編のうち、今回は前編)
文/米川春馬

「女性版骨太の方針」とかぶりまくり。この3項目だけじゃインパクト弱い

羽生:私たち『GROWIN' EGG』 は2022年9月に立ち上げたわけですから、もう1周年経ちますね。まずは2022年の振り返りから始めましょうか。

2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」が公表された後、8月に人的資本経営コンソーシアムが設立され、設立総会が開催されました。現在は437法人(2023年7月31日時点)が会員となり、人的資本経営の実践と開示を後押ししています。同じ8月には、政府が「人的資本可視化指針」を打ち出し、7分野・19項目の人的資本の開示項目例を示しました。

そして11月に、いよいよ有価証券報告書に記載すべき人的資本情報の開示項目が公表されました。具体的な数値で公表することが求められたのは、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女の賃金格差」の3つ。2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する約4000社は、これらの3つの数値を重要業績評価目標(KPI)として「従業員の状況」に記載しなければならない、と義務づけられたわけです。石原さん、このことを率直にどう思いますか?

「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・羽生祥子(左)と副編集長・石原直子(右)が情報開示スタートイヤーの人的資本経営について濃密に語る

石原:正直に言って、「え、この3項目なの? 鳴り物入りで始めた割に、最初の一歩が小さくないですか?」と思いました。今、羽生さんがおっしゃったとおり、政府は「人材版伊藤レポート」を掲げ、人的資本経営コンソーシアムの立ち上げ、金融庁のワーキンググループや内閣官房の研究会による開示ルール作り、と人的資本の情報開示を盛り上げてきたわけです。投資家は人的資本情報を見ながら経営判断をしていくのだから、企業は人的資本を重視する経営方針を立て、適切に情報開示すべきだ、と打ち上げ花火を上げたんですよ。いったいどんな開示項目が出てくるのだろう、と注目していました。ところが、出てきたのがこの3項目で……。

羽生:肩透かしを食らったわけですよね。わかります。だって、たとえば2023年に内閣府男女共同参画局が打ち出した「女性版骨太の方針」では、プライム市場上場企業に対して「2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努めること」と、「2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指すこと」と、具体的な数値目標を出しているわけです

特に前者は2025年までと期限を区切ったことでけっこう話題になりました。2030年なら、いまの経営者は後継者が頑張れば大丈夫と考えがちですが、2025年なら、自分がやらないと実現できませんからね。まぁ女性版骨太の方針の話はよいとして、これに比べると、人的資本の情報開示の3項目はインパクトが弱いです。というか、かぶりまくり感が否めない

石原:私も完全同意です。