人的資本経営ラボGROWIN' EGG

イケア「人の力を信じる」を、ビジネスに生かす真髄

究極の「人育て」企業:イケア・ジャパン(1)

人的資本経営のキーポイントのひとつ、人材育成に秀でた究極の「人育て」企業を紹介する。イケアでは、「We believe in people(人の力を信じる)」を基にコワーカー(従業員)の成長を促している。では、それを具体的にどう実践しているのか。人の力を信じることが、ビジネスにどのような良い影響を与えているのか。イケア・ジャパンPeople and Cultureのトップ、朝山玉枝さんから、究極の人育てを実践するマネジャーの役割、ツール、職場環境などを聞いた。
聞き手/羽生祥子(「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長) 文/米川春馬

イケアのすべての中心にある「8つのバリュー」

――イケア・ジャパンは、女性比率が管理職で50.0%(2022年12月末時点)、経営幹部で66.6%(2022年12月時点)、従業員全体では65%(2022年12月時点)と、ダイバーシティ&インクルージョンの面で高い成果を挙げています。その秘訣はどこにあるのでしょうか?

朝山:実は特別な秘訣はないんですよ。ただ第一に挙げるとすれば、創業当時から掲げているイケアバリューがすばらしく、そのような成果に結びついているのだと思います。「連帯感」「環境と社会への配慮」「コスト意識」「簡潔さ」「刷新して改善する」「意味のある違うやり方」「責任を与える、引き受ける」「手本となる行動でリードする」の8つのバリューになっています。このなかで、私たちにとってもっとも大切なことで、イケアカルチャーの中心にあるのが「連帯感(Togetherness)」です。みんなが責任を持ち協力して働くことが一番なんです。これがダイバーシティ&インクルージョンの基礎にもなっている。

8つのイケアバリューがビジネス・人・マーケティングなどのすべての中心にある

朝山イケアでは、この8つのバリューがビジネス・人・マーケティングなどのすべての中心にあるんです。たとえば、採用時にはバリューに共感する方を採用しています。入社時のイントロダクショントレーニングでバリューを学び、バリューと自分の関係を考えてもらいます。

――例えば、採用時にどんな質問をするのですか?

朝山:例えば、「このバリューの中で、あなたが最も得意なものは何ですか?苦手なものは?」といった感じです。

――それで、バリューに共感するかどうか見抜けてしまうんですね!

朝山:もちろん、採用時だけじゃないですよ。その後も日常的にバリューを意識する機会を設け、少しずつバリューに馴染んでもらいます。マネジャーとメンバーの年次面談やマンスリートークでは、「去年はどのバリューを意識して何を実現しましたか?」「今年はどのバリューに力を入れますか?」といった対話が盛んに行われています。リーダーシップもバリューをベースにつくっており、評価基準にもバリューが入っています。

――評価にも! 管理職の人は抽象的なバリューを評価として落とし込まねばならない。かなりスキルが必要ですね。これも事例を教えてほしいんですが、どんな具合に評価面談をするのですか?

朝山:そうですね(笑)、例えば「あなたはこの営業数字を作るにあたって、連帯感の視点でどのように実行しましたか?」とか、「今期は経費がずいぶん削減できましたね。素晴らしいです。この素晴らしい数字を出すために、どのように行動してリードしましたか?」とか。さまざまですよ。

なお、評価はビジネス・バリュー・リーダーシップの3軸で絶対評価を行っています。ビジネスとピープル(バリュー+リーダーシップ)をちょうど半々の比率で見ています。

――え、半分も⁉ ビープル、つまり“人材”を重視している証ですね。

朝山:そうした環境のなかで、私たちはいろんな仕事をしているうちにバリューを深く理解し、モチベーションとエンゲージメントを高めていきます。イケアバリューに共感できなくなったら、その人は居心地が悪くて辞めてしまうはずです

――去る者は追わない、共感を無理強いしないんですね(笑)

朝山:もちろんです。それはできませんし、人材の流動性は必要ではあると捉えています。