人的資本経営ラボGROWIN' EGG

高津尚志|人的資本経営は 、企業の競争力回復に必須

特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(1)

2022年10月12日、「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」の創刊を記念したオンラインイベントが行われた。ゲストは、世界的なビジネススクール・IMDの北東アジア代表であり、世界のビジネス動向を熟知する高津尚志さんだ。高津さんは「日本の競争力が著しく下がっている」ことに強い危機感を覚えているという。では、日本企業はどうしたらよいのか。人的資本経営という視点から詳しく伺った。その内容をお届けする。
聞き手/羽生祥子(「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長) 文/米川春馬

日本は、人間ドックで悪い結果が出ているのに、一向に運動しない人のような状態だ

――自己評価の低さは、日本人の危機感の現れであって、「このままでよい」と思うよりはまだマシだ、とも考えられますね。

高津:そのとおりです。とはいえ、アンケート結果だけでなく統計に基づく評価の方も低いわけですから、問題はまったく解決されていません。隣の韓国は、企業の俊敏性などの数値を大きく改善しており、比較すると、やはり日本には問題があると言わざるを得ません。人間にたとえると、日本はいま、何年も前から人間ドックで、お医者さんから「いろんな箇所で悪い数値が出ているので運動してください」と言われているにもかかわらず、一向に運動しない人のような状態にあります。厳しい言い方になりますが、日本企業は、自社がさまざまな問題を抱えていることがわかっているのに、改革・改善のための適切な諸活動をほとんど行えていないか、活動をしていても、スピードや規模が足りず、諸外国との競争に劣後している状態です。

――このままではマズいですね。若者たちが未来を悲観するのは当然です。

高津:では、どうしたらいいのか。人的資本経営に本気で取り組む必要があります。人的資本経営の実践は、企業の競争力回復の取り組みのまさに根幹に位置します。

――なぜ人的資本経営が企業の競争力を回復させるのですか?

高津:簡単にいえば、企業の成長が人材にかかっているからです。特にこの数年は、日本でも「ビジネスがうまくいくかどうかは、設備や機械やカネをどれだけ持っているかではなく、ヒト次第なんだ」という声を、多方面で耳にするようになりました。一定品質のものを大量に作って売ることが成長をもたらす時代はとうに終わり、知恵の組み合わせで他社にできないこと、いまだかつてないものを生み出せる企業が成長をしていく時代です。人の重要性がかつてなく高まっている現代に、人を資本としてとらえ、人への投資を重視する人的資本経営はぴったりフィットしています。 

世界の先進企業は優秀な人材を引き付け、人材に投資し、彼らの成長と創発を促すことがビジネスの成功につながることをよく知っています。「人的資本経営」という言葉を使うか使わないかに関わらず、「人材の能力をいかに伸ばすか、能力をいかんなく発揮できる状況をいかにつくるか」、また「世界の優秀人材にどう集まってもらうか」という競争に取り組んでいるのです。日本企業も人的資本経営を本気で実践する必要があります。

  • 高津尚志(たかつ・なおし)さん

    IMD北東アジア代表

    スイス・ローザンヌに本拠を置く世界的なビジネススクール・IMDの北東アジア代表。1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。フランスの経営大学院INSEADに学び、パリオフィスに勤務。その後、ボストン コンサルティング グループ、リクルートを経て2010年11月より現職。リクルート在職時には人と組織のマネジメント専門誌『Works』の編集長を務め、東京の桑沢デザイン研究所にてデザインを学んだ。IMD学長(当時)ドミニク・テュルパンとの共著『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』『ふたたび世界で勝つために:グローバルリーダーの条件』(日本経済新聞出版社)、IMD教授シュロモ・ベンハーとの共著『企業内学習入門――戦略なき人材育成を超えて』(英治出版)がある。