高津尚志|人的資本経営は 、企業の競争力回復に必須
特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(1)
20年前と最も違うのは、日本の競争力が著しく下がったこと
高津:この20年で大きく変わったことがあります。それは、日本の競争力が著しく下がったことです。2020年の段階でも日本のGDPは世界第3位です。しかし実は、一人あたりのGDPは下がりつづけており、例えばスイスに比べれば、およそ半分程度にすぎません。国力は落ち続けている、と見てよいでしょう。
その証拠に、私が所属するIMDが先ごろ発表した2022年版の「世界競争力ランキング」を見てください。2022年、日本は63カ国中34位となりました。1997年は17位でしたから、四半世紀の間に大きくランキングを落とし、過去最低です。世界競争力ランキングは、経済状況・政府の効率性・ビジネスの効率性・インフラの4分野のランキングと総合ランキングからなるのですが、日本では特に「ビジネスの効率性」が2014年の20位から51位と、8年間で急落しています(図表1)。
高津:もう少し細かく見てみましょう。「ビジネスの効率性」はいくつかのサブ因子からなるのですが、「生産性と効率性」「経営慣行」「姿勢と価値観」は、2022年にそれぞれ57位、63位、58位と世界最低水準です(図表2)。すべてが一様に低いわけではなく、人材育成への意識などは比較的高いのですが、全体的に見て低いことは間違いありません。
高津:問題は、この競争力指標の内訳は、およそ3分の2が統計評価、残りの約3分の1は各国の企業経営者や管理職など、いってみれば「インサイダー」へのアンケート結果による評価だ、ということです。図表3は、2014年と2022年のビジネスの効率性にかかわる日本のアンケート結果を抜粋し比較したものです。ここに挙げた7項目すべてで2014年より平均得点は下がり、10点満点で3点台や4点台がほとんど。特に「企業の俊敏性」「起業家精神」「市場の条件変化」は63カ国中最下位です。
高津:つまり、現在の日本の経営者や管理職は、「日本のビジネスの効率性は極めて低い」と自分たち自身のことを悲観的に評価しているわけです。日本人は総じてこの手の調査では点数を低めにつける傾向がありますから、多少は上向きに補正するつもりで見てもいいのかもしれません。ただ、それを差し引いても、日本のビジネスリーダーが日本というシステムに自信を失い続けてきたことは間違いありません。