高津尚志|人的資本経営は 、企業の競争力回復に必須
特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(1)
人的資本経営は、20年前から議論されていたこと
――いま、人的資本経営という言葉が注目されていますが、高津さんはどのような印象を持っていますか?
高津:私は2002年にボストン コンサルティング グループからリクルートに転職したのですが、配属されたのが「ヒューマン・キャピタル・マネジメント」のコンサルティングサービスを行う部署でした。日本語に訳すと、まさに人的資本経営です。つまり、2002年の時点で、人的資本経営という概念は、日本に入っていたわけです。
当時よく議論していたことも、大枠は「人材版伊藤レポート」と同じでした。私たちは20年前から、どうしたら人材を「資源」(活用する分だけ減るもの)ではなく、「資本」(うまく活用すれば、増えるもの)にできるのか、を考えていたんです。もちろんいくつかの新しいコンセプトは加わっていますが、企業が人材とどのように向き合うべきかという議論の方向性自体は、20年間、基本的に変わっていない。ただし、「人的資本の情報開示」だけは当時は議論の俎上には載っていませんでした。今回加わったのは、情報開示だけといってもよいくらいです。
率直に言えば「何を今さら」なのですが、日本経済を取り巻く環境は著しく厳しくなり、働き手の意識や行動も変わる中、再びこのコンセプトに着目することの意味は大きいです。
――私を含め、一般的なビジネスパーソンからするとにわかに巻き起こった新しい考え方に見えるのではないかと思いますが、人事の専門家の皆さんは、人的資本経営をずっと前から知っていたんですね。
高津:そのとおりです。人的資本経営という言葉を知らなかったり使ってなかったりするとしても、内容の多くはすでに見知っているし、実践に向けて取り組んでいるという人事の方が多いはずです。では、私たちは、なぜいまあらためて人的資本経営に取り組む必要があるのか。なぜ情報開示が加わったのか。そのことをよく考えなくてはならないと思います。