CEOさえ決断すれば、人的資本経営はすぐに着手できる
創刊1周年記念特集:大久保 幸夫さんに聞く(1)
株式会社職業能力研究所
代表取締役
大久保 幸夫さん
聞き手 羽生 祥子、石原 直子(「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」編集長・副編集長)
文 米川 青馬
- 前編
- 後編
人的資本経営の原点の一つは日本にあった
――そのような変化はいつ頃起きたのでしょうか?
大久保:少なくとも2000年頃には、日本的雇用の限界は顕在化していました。なぜこんなことを言えるかといえば、私たちが2000年には「知的資本経営」を提唱していたからです。20年以上前の知的資本経営は、いまの人的資本経営とかなり似ています。「人材版伊藤レポート」は経済学の観点から、知的資本経営は経営学の観点から、というアプローチの違いはありますが、目指すところは同じです。伊藤先生は経済と投資家の視点で、私たちは働く人と労働市場の視点で、企業を変えていこうとしていたのです。
知的資本経営の詳細は「Works 42 特別編集 知的資本とナレッジワーカー」に掲載されていますが、かいつまんで説明すると、人的資本(個人の知識や能力)・関係資本(顧客との関係)・構造資本(知的所有権やビジネスモデルなど)の3つを、目には見えない資本として定義し、労働者はナレッジワーカーを目指すべきだと呼びかけたものです。「ナレッジワーカー」とは、顧客満足などの質的目標を与えられて、知識を駆使して「何をやればその目標を実現できるのか」を考える労働者を指します。いまの言葉で言えば、ナレッジワーカーとは、主体的・自律的・価値創造的に考えて行動し、成果を出して目標を実現する労働者のことです。人的資本経営によって育成したい人材像とほぼ一緒なのです。
また、知的資本経営は人間重視の経営であり、一人ひとりが違うことを前提とした人材育成や、「ナレッジワーカー化により、キャリア選択権は個人側へと移行していく」といったことも想定していました。当時、すでに多様性やキャリアオーナーシップを論じていたわけです。20年経って、時代の状況が知的資本経営の理論に追いつき、多くの企業がナレッジワーカーを育成しようとするようになったと見ることもできます。
ちなみに、知的資本経営の先駆者であったレイフ・エドヴィンソンやヨーラン・ルースは、野中郁次郎先生の「知識創造の経営」に強い影響を受けていました。知的資本経営の原点の一つは日本にあったのです。ですから、人的資本経営や知的資本経営は、実は日本に馴染みやすいと思っています。