人的資本経営は日本人が働き方を変える大チャンスだ
特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(3)
キャリアに主体性を持って、自分のアップデートをしつづけよう
――他に、個人はどんなところを変えたらよいのですか?
高津:自分のキャリアに対して主体性を持つことが大切です。私は、その手始めとして、LinkedInのプロフィールを充実させることをお勧めしています。いまの仕事で実績を上げたり、研修を受けてスキルを身につけたり、希望通りの異動を実現したりしたら、書いてよい範囲で詳しくLinkedInに書くのです。世界のビジネスパーソンは、こうやって自分の能力と価値を整理し、世の中に対して公開しアピールすることをごく当たり前にやっています。自分がこのスキルを身につけたら、価値が高まり会社の得にもなる、と自ら上司や人事部に提案して、研修などに参加する権利や機会を引き出すことも日常茶飯事です。
ところが、日本のビジネスパーソンは、自分のキャリアや経験から得られた能力やスキル、価値を棚卸しする習慣がなく、能力開発投資も自分が計画するというより会社に言われるがまま、という人が多い。やはり、自分のキャリアを主体的につくる意識が低いのだと言わざるを得ません。キャリアに対する主体性が芽生えれば、自分という資本の価値を高める行動が増えてくるはずです。人的資本経営の時代には、それは会社からしてもウェルカムなのです。
企業は経営に、個人は自分自身に、もっと多くの愛を
――最後に、皆さんにメッセージをお願いします。
高津:人的資本経営時代には、企業はもちろん、個人もこれまで以上にシビアに勝負を問われるようになるでしょう。ある意味では厳しい時代です。「勝つ」とか「負ける」もそうですが、ビジネスの現場では“戦争用語”とでもいうものがよく使われるのも、厳しさの表れなのでしょう。
しかしよく考えれば、企業も個人もビジネスで勝つというのは、つまり「お客様や周囲に愛されること」です。本当は、ビジネスは戦争用語ではなく、愛の量で語られるべきなのです。お客様や周囲に愛されるためには、まず自分をよく愛することが欠かせません。企業は経営に、個人は自分自身に、もっと多くの愛を注ぎましょう。自分自身を愛し、周囲から愛されるなかで、自分の未来の価値を自ら創造していきましょう。それこそが人的資本経営の時代を生きることにほかなりません。
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高津尚志(たかつ・なおし)さん
IMD北東アジア代表
スイス・ローザンヌに本拠を置く世界的なビジネススクール・IMDの北東アジア代表。1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。フランスの経営大学院INSEADに学び、パリオフィスに勤務。その後、ボストン コンサルティング グループ、リクルートを経て2010年11月より現職。リクルート在職時には人と組織のマネジメント専門誌『Works』の編集長を務め、東京の桑沢デザイン研究所にてデザインを学んだ。 IMD学長(当時)ドミニク・テュルパンとの共著『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』『ふたたび世界で勝つために:グローバルリーダーの条件』(日本経済新聞出版社)、IMD教授シュロモ・ベンハーとの共著『企業内学習入門――戦略なき人材育成を超えて』(英治出版)がある。