人的資本経営ラボGROWIN' EGG

人的資本経営は日本人が働き方を変える大チャンスだ

特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(3)

2022年10月12日、「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」の創刊を記念したオンラインイベントが行われた。ゲストは、世界的なビジネススクール・IMDの北東アジア代表であり、世界のビジネス動向を熟知する高津尚志さんだ。高津さんは、人的資本経営は、日本人が働き方を変える大チャンスだと語る。第3回は、個人が人的資本経営時代にチャンスを掴むためのポイントを説明する。
聞き手/羽生祥子(「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長) 文/米川春馬

自分を資源ではなく「資本」として扱おう

――ここまでのお話で、企業が人的資本経営をどう行えばよいかはわかりました。では、個人はどうすればよいのでしょうか?

高津:真っ先にお伝えしたいのは、人的資本経営は、日本人が働き方や生き方を変える大チャンスだ、ということです。ただし、チャンスを掴むためには、考え方を根本から変えなくてはなりません。いまの日本には、自らを単なる労働力だとみなしている方がたくさんいるように見えます。自分は会社の指示どおりに働き、いうとおりに異動して、会社に消費される「資源」でよいのだ、と思いこんでいる。その考え方をいますぐに改めましょう。そして、自分自身のことを「資本」として扱いましょう。それが、人的資本経営時代に個人が踏み出すべき最初の一歩です。

自分のことを資本とみなせば、自然と、自分は何がしたいのか、将来どうなりたいのか、どうしたら自らの能力・価値を高められるのかを考え、行動を起こすようになります。プロフェッショナルとして何ができるのか、何をどのくらいの時間でしなければならないのか、といったこともシビアに考えるようになります。そして、自分という資本をうまく育てて使っていける会社なのか、と会社と自分の関係性についても見方が変わってくるでしょう。

IMDは幹部教育に特化したビジネススクールで、北東アジア代表を務める高津さんは経営幹部の実情に詳しい。

――自分を資本として扱うというのは、わかるようで難しいですね。具体的にはどんな考え方をしていけばいいのでしょう?

高津:私が聞いたことのある、笑うに笑えない話を紹介しましょう。ある時シンガポールで全世界からさまざまな企業の幹部候補生が集まるリーダー研修が開かれました。最終日の受講生アンケートに、ある日本企業の幹部が「5日間、冷房が効きすぎて寒くて講義に集中できなかった」と書いてきたというのです。これが、自分自身を「資本」と考えられていない人の行動の典型例です。会社は何を思って自分をこの研修に派遣したのか。自分自身は、この機会に何を得て帰るべきなのか。これを考えていれば、初日の午前中にも「室内が寒すぎます。冷房を弱めてください」と要求することができたはずなのです。自分のことを資源ではなく資本だと考えれば、仕事に対する姿勢や会社との関係性が変わってくる。私はそう考えています。

――最終日に冷房の苦情をアンケートに書く日本人……リアルですねぇ。確かに、自分のことを資源でしかないと思っている人と、資本であると思っている人の間には、行動にも大きな違いが生まれそうです。チャンスを掴むためには、いますぐに考え方を変えたほうがよいですね。