人的資本経営ラボGROWIN' EGG

企業は何をすれば、人的資本経営をしているといえるのか?

特集 創刊記念イベントルポ 高津尚志に聞く いま日本に人的資本経営が必要な理由(2)

2022年10月12日、「人的資本経営ラボGROWIN’ EGG」の創刊を記念したオンラインイベントが行われた。ゲストは、世界的なビジネススクール・IMDの北東アジア代表であり、世界のビジネス動向を熟知する高津尚志さんだ。第2回記事では、企業が人的資本経営を実施するとは、具体的に何をすることなのか、基本的な3つのポイントに関する高津さんの指摘をまとめた。
聞き手/羽生祥子(「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」編集長) 文/米川春馬

企業が行う人的資本経営の第一歩、3つのポイント

――企業はいったい何を行えば、人的資本経営をしているといえるのでしょうか?

高津:私からは人的資本経営の第一歩として、3つのポイントを説明します。重要な観点はこれ以外にもいくつもありますが、まずは3点を意識するところから始めてみるといいでしょう。

●ポイント1

人材を「資本」として扱い、その価値を継続的に高める

【施策例】ノーレイティング、手挙げ制、リスキリング

高津:1つ目は、人材を「資本」として扱うことです。資本は、使う分だけ減る「資源」とは違い、うまく活用すれば増やすことができます。つまり「人材を資本として扱う」とは、人材の能力を向上させて価値を高めることや、人材が高い能力を発揮できる活躍の場づくりを重視する姿勢を指します

たとえば、人事評価の場面において、近年「ノーレイティング」という方法論が注目を浴びてきました。ノーレイティングとは、1年や半年ごとの人事評価による従業員の点数付け・ランク付けを止めて、その代わりに日々のリアルタイムフィードバックに注力する取り組みです。マネジャーや同僚どうしが毎日のようにフィードバックすることで、メンバーに少しずつ成長してもらおうという狙いがあります。「ノーレイティング」は、評価することよりも成長してもらうことを重視するという意味で、人材を資本として扱う施策だといえます。「今日の発言は良かったね」「明日からあそこだけ気をつけたらもっと良くなるよ」といった日々のフィードバックが、半期や1年に1度のフィードバックよりも人材の能力開発やモチベーション向上に効くと考えられるからです。

高津さんは多数の経営者との対話を通して、人と組織の関係性のあり方について考察を重ねている

――ノーレイティングの他にも、人材を資本として扱うことに寄与する施策はありますか?

高津:すでに多くの企業が始めていますが、「手挙げによる社内異動制度」は人材を資本として扱う施策のわかりやすい例です。この制度があれば、多くの従業員は、近い将来に社内でやりたいことに挑戦できる可能性がある、と感じることができます。それだけでモチベーションが高まる従業員が少なくないはずです。