ダイバーシティを強みにしてイノベーションを創出する
イベントレポート「第2回スクランブルエッグ」(1)
石原直子(「人的資本経営ラボGROWIN' EGG」副編集長)
文/米川春馬
人的資本情報は「ありたい姿」に近づくためのデータ
――推進組織の変遷もずっと見てきた曽根さんにとって、これまで特に大変だったことは何ですか?
曽根:初期にはやはり、社員の皆さんの理解を得るのにそれなりの苦労がありましたね。ただ、カゴメは経営トップがダイバーシティに対して強い想いを持っており、それが壁を乗り越える力となってきました。3年で集中的に働きやすい環境を構築できたのも、経営トップのコミットが大きかったと考えています。現組織の「D&I for イノベーション推進室」という名前にも、社長・山口の思いが込められています。
――「D&I for イノベーション推進室」は何に取り組んでいるのですか?
曽根:私たちはいま、「イノベーション創出に向けたダイバーシティ推進」を行っています。多様な考え、バックボーンを持つ人材を活かす環境づくりを進め、イノベーションが生まれやすい素地をつくっているのです。目標は、「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」というカゴメのありたい姿を実現することです。
たとえば女性活躍推進には3つのフェーズがあると考えています(下の図)。現在は第3フェーズ、つまりダイバーシティを強みにしてイノベーションを創出する段階に入っています。女性リーダーたちが、変化対応力・イノベーション創出力の源泉として機能し、後輩が目標とするロールモデルでありつづけるフェーズです。ただ、やってみてよくわかりましたが、「D&I for イノベーション」の推進は決して簡単ではありません。
――ところで、カゴメは2022年度から、国が求めるよりも一足先に男女賃金格差(男性の賃金に対する女性の賃金の割合/全労働者:65.4%、正社員67.3%、パート・有期社員:87.6%)を公表しています。この一足先の開示は、なぜ実現できたのでしょうか?
曽根:男女賃金格差を公表することは、とてもスムーズに決まりました。大事なのは、私たちは現状の数値や施策を自慢するために公表したのではない、ということです。この数値は、あくまでも私たち自身の現状把握、マイルストンの確認、そして課題特定のために公表したのです。
もう少し詳しく語ると、たとえば20代正社員の男女賃金格差は102%で、むしろ女性のほうが少し高いくらいになっています。実は20代は、ほかのさまざまな男女格差もほとんどなくなりました。つまり、女性社員が活躍できるように採用・育成を行えば、男女格差がなくなることが証明されたのです。人的資本情報は、このようにしてありたい姿に近づくために活用するものだと考えています。